新しい記事を書く事で広告が消せます。
2006.05.15.Mon / 01:54
どうもはじめまして、卍丸です
まず最初に、このブログについて紹介します。
このブログは、俺個人が趣味で書いた小説を投稿するために作りました。
執筆ペースは遅い上に、内容もいまいちかも知れませんが、足跡、コメントなどを残していただけたら励みになります。
=============<投稿内容>===============
<連載小説> <アイデア書き出し>
ジングル・ベル ☆ 自殺志願者
┃
┣ −1−
┣ −2−
┣ −3−
┣ −4−
┣ −5−
【雑談広場】
重要!卍丸からのお知らせ(Д`【ブログの一時凍結】
超重要! 卍丸からのお知らせ(Д`【『小説の道』復活宣言】
『小説の道』の兄弟ブログ 『コドクな旅路』 創設!
==================================
見やすい形を模索中・・・
しばらくはこの形で。文字をクリックするとジャンプします
カテゴリーごとに分別し、古いものから順に表示されるようにしてあります
なお、感想などは小説の各話の末尾に。どこでもけっこうです。
感想ってわけじゃないけど、まぁコメントを書きたいって人は【雑談広場】にてどうぞ(Д`
ちなみにリンクフリーなんでご自由にリンクどうぞ。

=============================
↑救える命がきっとあるはず
リンク先のサイトの左上の項目から、一日最大10円の募金が無料でできます。
小さなことで、救える命がきっとあるはず・・
まず最初に、このブログについて紹介します。
このブログは、俺個人が趣味で書いた小説を投稿するために作りました。
執筆ペースは遅い上に、内容もいまいちかも知れませんが、足跡、コメントなどを残していただけたら励みになります。
=============<投稿内容>===============
<連載小説> <アイデア書き出し>
ジングル・ベル ☆ 自殺志願者
┃
┣ −1−
┣ −2−
┣ −3−
┣ −4−
┣ −5−
【雑談広場】
重要!
超重要! 卍丸からのお知らせ(Д`【『小説の道』復活宣言】
『小説の道』の兄弟ブログ 『コドクな旅路』 創設!
==================================
見やすい形を模索中・・・
しばらくはこの形で。文字をクリックするとジャンプします
カテゴリーごとに分別し、古いものから順に表示されるようにしてあります
なお、感想などは小説の各話の末尾に。どこでもけっこうです。
感想ってわけじゃないけど、まぁコメントを書きたいって人は【雑談広場】にてどうぞ(Д`
ちなみにリンクフリーなんでご自由にリンクどうぞ。
=============================
↑救える命がきっとあるはず
リンク先のサイトの左上の項目から、一日最大10円の募金が無料でできます。
小さなことで、救える命がきっとあるはず・・
2006.05.15.Mon / 18:00
【更新内容掲示板】
更新内容掲示板なるものをつけたしてみることにした。
ここに更新内容を記し、より見やすい形を模索していこうと思う。
===========================
●2006/05/15 『ジングル・ベル』 第1話更新
●2006/05/16 【アイデア書き出し】カテゴリー追加
【雑談広場】 設置
●2006/05/17 【アイデア書き出し】 『自殺志願者』 追加
●2006/05/21 『ジングル・ベル』 第2話更新
●2006/06/18 『ジングル・ベル』 第3話更新
●2006/10/30 『ジングル・ベル』 第4話更新
●2006/11/02 『ジングル・ベル』 第5話更新
●2007/03/27 重要! 卍丸からのお知らせ(Д`【ブログの一時凍結】
===========================
更新内容掲示板なるものをつけたしてみることにした。
ここに更新内容を記し、より見やすい形を模索していこうと思う。
===========================
●2006/05/15 『ジングル・ベル』 第1話更新
●2006/05/16 【アイデア書き出し】カテゴリー追加
【雑談広場】 設置
●2006/05/17 【アイデア書き出し】 『自殺志願者』 追加
●2006/05/21 『ジングル・ベル』 第2話更新
●2006/06/18 『ジングル・ベル』 第3話更新
●2006/10/30 『ジングル・ベル』 第4話更新
●2006/11/02 『ジングル・ベル』 第5話更新
●2007/03/27 重要! 卍丸からのお知らせ(Д`【ブログの一時凍結】
===========================
2006.05.16.Tue / 15:58
ジングル・ベル
第一章
―― 1 ――
MERRY X−MAS。
カッカッカッカッカ……
目覚まし時計の秒針が刻々と夜を刻んでいる。少年はベッドから身を起こし、時計に目をやった。暗がりの中、蛍光塗料の塗られた時計の針が22時48分を指している。あと1時間弱で日付が変わる。12月25日、クリスマスだ。
少年の名は浅野 秀一、10歳。
成績はそこそこ優秀。得意な科目は体育で、特にサッカーに夢中だ。
秀一は再び布団を頭から被った。眠らなくてはならない。眠らなくてはならないのに、眠れない。興奮からかすっかり目が冴えてしまっていた。
今宵はクリスマス・イヴ。秀一は兼ねてよりの計画のため、午後9時という早い時間帯からベッドでうずくまっている。にもかかわらず、睡魔は一向に秀一のもとを訪れてはくれない。
「あぁ……もぅ!」
秀一は布団を投げ出し、ベッドから降りた。布団から出ると少し寒い。青いパジャマの袖に、亀のように手を引っ込め、腕組みをして部屋を出た。
一歩、一歩。階段を下りるたびにしなやかな黒髪が小気味良く揺れる。少し長いパジャマの裾に足を取られないように気をつけながら、下の階のリビングへと降りていく。
リビングでは父と母が3分の1ほど残ったケーキとパーティのご馳走の余りを囲んで晩酌を酌み交わしていた。
「あら、秀ちゃん。どうしたの?」
シャンパングラスを片手に少し頬を赤く染めた母が問いかけてきた。
「眠れないんだ……」
「ははは、秀一。早く寝ないとサンタさんが来てくれないぞ」
その時、秀一の背後で階段の軋む音が響いた。
「親父、そんなもんいるわけねぇだろ」
兄貴だ。高校1年と6つ歳の離れた兄貴と並ぶと頭二個分は身長差がある。兄貴は冷蔵庫を開き、コーラの缶を一本掴み出すと、そのまま階段を登っていった。すれ違い様に、ふっと鼻で笑われたのが気にさわる。兄貴の背中に向かってアカンベーをした。
「父さん、サンタはいるよ」
「うん? そうだな。サンタはいるな」
そう言って父はシャンパンのグラスを傾けた。
秀一はサンタの存在を信じている。去年、兄からサンタはいないと聞かされた時は天と地がひっくり返るほどに衝撃を受けたのをよく覚えている。だから、今年こそはサンタの存在をなんとしても証明してやるのだ。
「秀一、眠れないんだったな? お前も飲むか?」
「あなた、駄目ですよ。まだ小学生なんだし」
「大丈夫だって。こんなもん酒じゃないさ、ジュースジュース。な、秀一。ちょっとだけ」
「うん」
今までシャンパンは飲まず、オレンジ・ジュースで過ごしたイヴだが、どうやら今年はやっとシャンパンデビューができそうだ。ちょうどいい睡眠薬だと思い、飲むことにする。
「さ、乾杯だ」
グラスとグラスの縁が小さな音を立ててぶつかった。グラス半分ほどに注がれたシャンパンは炭酸の泡が絶え間なく現れては消え、独特の香りが鼻をくすぐる。
「ゆっくり飲みなさいよ。一応お酒なんだから」
母の言葉をよそに、秀一は一気にグラスを傾けた。普通の炭酸飲料のように容易に飲めてしまったのが自身でも驚きだ。味は正直それほど美味しくはない。どちらかといえばオレンジ・ジュースのほうがいい。
この季節、板張りの廊下はかなり冷たい。やはり裸足ではなく靴下をはいておいたほうがよかったか。少し後悔しつつ、階段を登り、自分の部屋の前まで来た。
狭い廊下に向かい合う扉が二つ。内、右を開けば秀一の部屋で、向かい側には兄・光治の部屋がある。
大音量のステレオが、扉越しでも迷惑なぐらい鳴り響いていた。ジャカジャカと何を言っているのかよく分からない激しいメロディが耳障りだった。
「光治兄さん、うるさい!」
ドンと軽くドアを蹴った。すぐにスピーカーの音量が半分ほどに下がり、中から声が聞こえてくる。
「え? なんだって?」
「眠れないから静かにしてよ」
「おぅ、分かった分かった。早く寝ろ。明日になっちまったらサンタさんは来てくれねぇぜぇ」
スピーカーのボリュームが再び大音量に戻される。しかし次の瞬間、ふっと音が止んだ。どうやらヘッドホンに切り替えたらしい。いくら近所とは距離があるとはいえ、秀一にとっては不愉快そのものだった。どうせならもっと静かでムードのある曲を聴けばいいのに。
秀一は自らの部屋に入り、しっかりと鍵を閉めた。この扉は外からでも鍵を使えば開けられるが、鍵は秀一自らが管理し、今も机の引き出しの中で眠っている。光治はかつて、秀一にこう言った。サンタは親父だ。9歳の秀一にとって、その言葉はあまりにも衝撃的だった。サンタが父さん? そんな馬鹿な。本当だと言い張る光治に対し、秀一はうそだと言い張った。
「サンタは絶対にいる」
腹の底から唸るように声を絞り出すと秀一は再びベッドへと滑り込んだ。布団を頭からかぶり、力いっぱい目を閉じる。眠らなくては。
ジングル・ベル一覧へ 次へ
↑清きワンクリックをお願いします(Д`
2006.05.16.Tue / 16:08
新しく、【アイデア書き出し】カテゴリーを追加しました。
これはよく言えば、戦力予備軍。悪く言えば、ボツ置き場・・(Д`;
とにかく、思いついてとりあえず書き出してみたアイデアを掲示してみるつもりです。
いつまでもフォルダの奥底に置いとくのもあれだなぁと思ったので・・・
どうせなら、少しでも日のあたるとこに置いておけば、少しは芽なり根なり生えてくるかなという魂胆です。
中途半端なところで切れてしまうこともあるかもしれませんが、おもしろい!続きが読みたい!などコメントに残してくれれば、根が出てくるやもしれません。。。
逆もまたしかりで、つまらない!これはありきたりだ!なんていうコメントも大歓迎です。
ここをこうこうして、この先こういう展開になってくんじゃないだろうか。みたいに、読者さんが大まかな話のあらすじを考えてくれてもかまいません。
それを参考に、面白いものができれば、とても楽しいです。
まぁ、なにはともあれ、とりあえずやってみれば、なるようになるでしょ。
うんうん。
これはよく言えば、戦力予備軍。
とにかく、思いついてとりあえず書き出してみたアイデアを掲示してみるつもりです。
いつまでもフォルダの奥底に置いとくのもあれだなぁと思ったので・・・
どうせなら、少しでも日のあたるとこに置いておけば、少しは芽なり根なり生えてくるかなという魂胆です。
中途半端なところで切れてしまうこともあるかもしれませんが、おもしろい!続きが読みたい!などコメントに残してくれれば、根が出てくるやもしれません。。。
逆もまたしかりで、つまらない!これはありきたりだ!なんていうコメントも大歓迎です。
ここをこうこうして、この先こういう展開になってくんじゃないだろうか。みたいに、読者さんが大まかな話のあらすじを考えてくれてもかまいません。
それを参考に、面白いものができれば、とても楽しいです。
まぁ、なにはともあれ、とりあえずやってみれば、なるようになるでしょ。
うんうん。
2006.05.17.Wed / 23:46
自殺志願者
薄暗い教室。
そこに俺は座っていた。
蒸し暑いその空間に一体何人の人間がいるんだろう。
そこにいる人間は、皆一様に机の上にうずくまり、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
そして、俺も例外じゃない。
俺もまた、机にうずくまりながら周りの様子を窺っていた。
カッカッ、と黒板にチョークで字を書く音が教室に響いた。俺は視線だけを前にやり、白く刻まれるその線の行方を追った。
『死 死 死 死 死 死 死 死 死 ――』
そこにはいくつもの『死』という文字が刻まれていた。
黒板の前で蠢く黒い背中が憑かれた様に字を書き続ける。やがてその動作は徐々に激しくなり、少し字が大きくなったかと思えば次の瞬間にはチョークが砕けるほどの力で黒板を書き殴った。砕けたことに一瞬躊躇するも、そのまま書き続けることをやめない。チョークはどんどん砕けていき、字を書く力はさらにましていく。終いには黒板を殴りつけるような勢いで書き出す。すでにチョークは粉々になっており、何を書いているのか分からなくなっていた。発狂したように黒板を殴り続ける男。
俺には分かる。チョークがなくなっても彼は書き続けているのだ。俺には見えなくても彼には見えているのだ。彼は一心不乱に『死』を描き続けている。
ふと、何の前ぶれも無く、彼はおとなしくなった。
しばらく自分の書いた文字を見てから、こちらへ振り返る。
彼は黒子のように全身真っ黒だった。振り返っても後姿と区別がつかないほどに、全身が真っ黒い、まるで影のように。
そして彼は何か言葉を口にした。俺にはそれが聞き取れない。低く、唸るように、それでいて頭の中に響いてくる声。俺にはその言葉の意味がわからない。
まるで、知らない国の言葉で話されているようだ。
彼が話し終わると、教室にまた沈黙が訪れた。そして音も無く、その現象は始まった。
俺の二つ前の席に座っていた奴の片手が挙がりだしたのだ。上から糸で引き上げられるように、ゆっくりと、不自然に。
あたりを見回すと、他にも何人かが手を挙げようとしている。ふと気付くと俺の左手も何かに引っ張られるようにして浮かび上がっていく。
不思議とそれを止めようとはしなかった。止めようとして止まったかどうかは分からない。ただ、なんとなく俺はそれを受け入れていた。
ゆっくりと挙がりきる左手。するとその手は、なにかを掴もうとするかのごとくもがき始めた。俺はそれを他人事のように見つめる。周りの奴らも同じように挙がった手が狂ったようにもがいている。今となっては全員の手が空を掴もうともがいていた。
俺は視線を彼に戻した。
彼はゆっくりとその真っ黒い腕を俺のほうに向け、その真っ黒い指先が俺を指した。
ナ・カ・ノ…
彼が俺の名前を呼んだ時、全身が脈打つのを感じた。
「中野。……どうした、おい中野!」
その言葉を聴いて、俺の身体がびくりと跳ね上がった。
勢い良く太ももを机にぶつけ、ガタンという大きな音が教室中に響いた。
目の前には几帳面すぎるほどびっしり式と図形で埋め尽くされた黒板。その前に立っているネクタイを締めた男。あれは――センセイ。そう、先生だ。
ふと我に返ってあたりを見回した。
教室にいる生徒みんなが俺を見ている。続いて先生に目をやると呆れたような顔で俺を見ていた。
横にいる女子が自分の数学の教科書を指して合図を送ってきた。黒板に目をやると見たことも無い式が居座っている。まだ解かれきっていないそれはまるで俺を待っているかのように思えた。あれを俺に答えろと? あわてて教科書を開こうとする。が、机の上にそれが見つからない。あるのは古典のノートに教科書、故事事典。俺だけ一時間前の世界から時間が止まっていた。
「ぁ……すいません、分かんないっす」
どっと教室が沸いた。
「お前なぁ……わかんないんだったら手をあげるなよ。何がしたいんだ?」
その言葉にもう一度教室が沸く。俺はすみませんと、頭をうなだれた。
俺は寝ぼけて手を上げていたのか……。
「もういい。座ってちゃんとノートとってから出直して来い」
クスクスと教室のあちこちから聞こえる笑い声を尻目に、俺はノートを広げ、黒板に書かれたことをそっくりそのまま書き写し始めた。
恥ずかしい。
確かに恥ずかしかった。しかし、俺は奇妙なほどに冷静だった。
苦笑いを浮かべながら、若干顔を赤くして必死にノートをとる俺を、一歩後ろに下がった場所で眺めている感覚。
まるで、今笑われていることが、他人事のように感じた。
「よぅ、今日のMVPはお前で決まりだな」
授業が終わり、先生の姿が見えなくなってすぐに何人かの男子が俺の周りに集まってきた。
一番に声をかけてきたのは、やはり佐久間だった。
「中野選手、今日の勝因はやはり昨夜遅くまでゲームをしていたからでしょうか?」
「よせよ、なんのマネだ」
「ヒーローインタビューに決まってるじゃんか」
そういって佐久間はシャーペンをマイクに見立て、どこぞのアナウンサーのようにあごの下で構えている。
=============
とりあえず、ここまでしか書いてない・・(Д`;

↑清きワンクリックをお願いします(Д`
薄暗い教室。
そこに俺は座っていた。
蒸し暑いその空間に一体何人の人間がいるんだろう。
そこにいる人間は、皆一様に机の上にうずくまり、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
そして、俺も例外じゃない。
俺もまた、机にうずくまりながら周りの様子を窺っていた。
カッカッ、と黒板にチョークで字を書く音が教室に響いた。俺は視線だけを前にやり、白く刻まれるその線の行方を追った。
『死 死 死 死 死 死 死 死 死 ――』
そこにはいくつもの『死』という文字が刻まれていた。
黒板の前で蠢く黒い背中が憑かれた様に字を書き続ける。やがてその動作は徐々に激しくなり、少し字が大きくなったかと思えば次の瞬間にはチョークが砕けるほどの力で黒板を書き殴った。砕けたことに一瞬躊躇するも、そのまま書き続けることをやめない。チョークはどんどん砕けていき、字を書く力はさらにましていく。終いには黒板を殴りつけるような勢いで書き出す。すでにチョークは粉々になっており、何を書いているのか分からなくなっていた。発狂したように黒板を殴り続ける男。
俺には分かる。チョークがなくなっても彼は書き続けているのだ。俺には見えなくても彼には見えているのだ。彼は一心不乱に『死』を描き続けている。
ふと、何の前ぶれも無く、彼はおとなしくなった。
しばらく自分の書いた文字を見てから、こちらへ振り返る。
彼は黒子のように全身真っ黒だった。振り返っても後姿と区別がつかないほどに、全身が真っ黒い、まるで影のように。
そして彼は何か言葉を口にした。俺にはそれが聞き取れない。低く、唸るように、それでいて頭の中に響いてくる声。俺にはその言葉の意味がわからない。
まるで、知らない国の言葉で話されているようだ。
彼が話し終わると、教室にまた沈黙が訪れた。そして音も無く、その現象は始まった。
俺の二つ前の席に座っていた奴の片手が挙がりだしたのだ。上から糸で引き上げられるように、ゆっくりと、不自然に。
あたりを見回すと、他にも何人かが手を挙げようとしている。ふと気付くと俺の左手も何かに引っ張られるようにして浮かび上がっていく。
不思議とそれを止めようとはしなかった。止めようとして止まったかどうかは分からない。ただ、なんとなく俺はそれを受け入れていた。
ゆっくりと挙がりきる左手。するとその手は、なにかを掴もうとするかのごとくもがき始めた。俺はそれを他人事のように見つめる。周りの奴らも同じように挙がった手が狂ったようにもがいている。今となっては全員の手が空を掴もうともがいていた。
俺は視線を彼に戻した。
彼はゆっくりとその真っ黒い腕を俺のほうに向け、その真っ黒い指先が俺を指した。
ナ・カ・ノ…
彼が俺の名前を呼んだ時、全身が脈打つのを感じた。
「中野。……どうした、おい中野!」
その言葉を聴いて、俺の身体がびくりと跳ね上がった。
勢い良く太ももを机にぶつけ、ガタンという大きな音が教室中に響いた。
目の前には几帳面すぎるほどびっしり式と図形で埋め尽くされた黒板。その前に立っているネクタイを締めた男。あれは――センセイ。そう、先生だ。
ふと我に返ってあたりを見回した。
教室にいる生徒みんなが俺を見ている。続いて先生に目をやると呆れたような顔で俺を見ていた。
横にいる女子が自分の数学の教科書を指して合図を送ってきた。黒板に目をやると見たことも無い式が居座っている。まだ解かれきっていないそれはまるで俺を待っているかのように思えた。あれを俺に答えろと? あわてて教科書を開こうとする。が、机の上にそれが見つからない。あるのは古典のノートに教科書、故事事典。俺だけ一時間前の世界から時間が止まっていた。
「ぁ……すいません、分かんないっす」
どっと教室が沸いた。
「お前なぁ……わかんないんだったら手をあげるなよ。何がしたいんだ?」
その言葉にもう一度教室が沸く。俺はすみませんと、頭をうなだれた。
俺は寝ぼけて手を上げていたのか……。
「もういい。座ってちゃんとノートとってから出直して来い」
クスクスと教室のあちこちから聞こえる笑い声を尻目に、俺はノートを広げ、黒板に書かれたことをそっくりそのまま書き写し始めた。
恥ずかしい。
確かに恥ずかしかった。しかし、俺は奇妙なほどに冷静だった。
苦笑いを浮かべながら、若干顔を赤くして必死にノートをとる俺を、一歩後ろに下がった場所で眺めている感覚。
まるで、今笑われていることが、他人事のように感じた。
「よぅ、今日のMVPはお前で決まりだな」
授業が終わり、先生の姿が見えなくなってすぐに何人かの男子が俺の周りに集まってきた。
一番に声をかけてきたのは、やはり佐久間だった。
「中野選手、今日の勝因はやはり昨夜遅くまでゲームをしていたからでしょうか?」
「よせよ、なんのマネだ」
「ヒーローインタビューに決まってるじゃんか」
そういって佐久間はシャーペンをマイクに見立て、どこぞのアナウンサーのようにあごの下で構えている。
=============
とりあえず、ここまでしか書いてない・・(Д`;
↑清きワンクリックをお願いします(Д`
2006.05.21.Sun / 19:39
ジングル・ベル
―― 2 ――
カッカッカッカッカ……
現在の時刻、22時54分。
シャンパンが効いてきたのか少しずつ眠くなってきている。いい感じだ。秀一は180度寝返りをうった。
日付が変わるまではあと一時間もある。それまでには充分夢の世界へと旅立てるだろう。
サンタを証明するためには、まず今日中に眠らなくてはならない。
捕まえるわけではない、証明するのだ。
まず、兄貴の話ではサンタを見てしまった子供の前には二度とサンタは現れないのだという。
いったい何故なのだろうか。秀一はいろいろと思考を重ねた挙句、ある仮説へとたどり着いた。
サンタは極度の恥ずかしがり屋なのだ。きっと顔を見られるのがたまらなく恥ずかしいのではないか。だから昼間、堂々とプレゼントを配らずに夜中にこっそりと配りに来る。
そして、一度顔を見られた子の元へは恥ずかしくてやってこれないのではないか。
そこまで来てまた新たな仮説が生まれた。ひょっとして、サンタはルックスに自信がないのか? 一瞬、ものすごくタラコ唇なおじさんが浮かび、噴き出したことがあった。
待てよ、そうなると絵本やポスターに書かれている真っ白い髭のサンタ。あれはかつて、サンタを見た子供たちが記憶を頼りに描いたものなのだろうか。
それとも、まったくの想像で描かれたものなのか。
ぜひともサンタの顔を拝みたくなるが、来年以降プレゼントがもらえなくなっては困るので泣く泣くこの案はお蔵入りにされた。
秀一は改めて寝返りをうつ。真っ暗な部屋の中、ぼんやりと天井が視界に浮かび上がる。ゆっくりと目を閉じた。まぶたが重い。
眠ろう眠ろうと意識していては駄目だ。こうやって目を瞑り、どうでもいいことに意識を集めていれば自然と眠りにつける。秀一は、朝、目覚めた瞬間を思い描いた。
目覚ましのベルと共に目覚め、その枕元にはファンタジックな包装紙と派手なリボンに包まれたプレゼントが置かれているのだ。そう、プレゼント。
どこの誰かは知らないが、サンタ・クロースという人はよっぽど太っ腹なのだ。秀一の見解では、サンタは神様の一種ではないのだろうかというのが最有力である。
秀一はドアの方へと目を向けた。
いざとなると不安になってくる。この機を逃すと丸々一年待たなくてはならないのだ。万全を期さなくてはならない。
サンタ証明作戦の最終確認だ。
まずは鍵。ドアの鍵はしっかりと閉めてある。鍵は引き出しの中にしまってあるのだから誰もこの部屋には入れない。つまり、これで朝プレゼントがあれば、サンタは父や母ではないと証明できる。
次に、ベランダの方に視線を移した。ベランダといっても50センチほどの幅しかなく、人一人立つのがやっとだが。カーテンは半分開けてある。
外は真っ暗だ。ぽつぽつと見える家は、そのほとんどが灯りを燈していない。
厚い雲が空を覆っていた。気温もかなり低い。雪が降ってきてもおかしくないのだが、どうやらホワイト・クリスマスにはなりそうにない。
とにかく、ここの鍵は開けてある。
あいにくこの家には煙突が存在しない。よってサンタはここから部屋に入ってくることになる。
いくらサンタがすごかろうとも、泥棒でない以上自力で鍵を開けられるという保証はどこにもない。もしかしたらあきらめてプレゼントを持って帰ってしまうかもしれない。それは防がなくては。
ベランダの窓際にはマットが敷かれている。秀一がこっそり、玄関に敷いてあったものを失敬してきたのだ。
サンタはフィンランドの出身らしい。と、いうことは当然家の中でも靴を履く習慣があるのではないか。それを配慮してのことだった。小さいが、少しは泥を落とせるだろう。
秀一は我ながら完璧な作戦に笑みを漏らした。兄貴の悔しがる顔が目に浮かぶ。
これが全てではないのだ。さらに切り札を用意してある。最後にして最大の奥の手。何をプレゼントに頼んだか、だ。
『MDコンポ』
そう書かれたクリスマスカードが枕元に置かれていた。その傍らには小さな靴下が一足。もちろん入るわけがないが、一応だ。
だいぶ値が張る。高価なものだということは分かっている。果たしてサンタはこの願いを聞き入れてくれるだろうか。
兄貴でさえ『MDコンポ』を持っていない。パソコンに曲を取り込み、好きな曲だけをCD―Rへと焼き付け、聞いている。
そのくせ、MDウォークマンは持っている。バイトの金で買ったらしい。部活に行くときなどは友達に頼んで録音してもらったのだろう、耳のヘッドホンから音を漏らしながら家を出て行く。
正直言うと、MDウォークマンも欲しい。だが、二つも頼むなんて欲張りだ。ウォークマンのほうは正月の親戚めぐりで集めるお年玉を当てにするとしよう。
完璧だ。父と母は何を頼むのか分からない。でも、サンタは違う。
サンタには世界中の子供たちの願いが届くのだ。何故ならサンタはすごい人なのだから。
「……あ」
突然、間の抜けた声と共に秀一は起き上がった。
そのままベッドの上から上半身だけを乗り出し、ベッドの下をまさぐる。やがてなにやら袋を引っ張り出した。「ふんわかcookie」と書かれたクッキーの袋だ。まだ未開封のそれを机の上に置き、秀一は鍵を開けて階段を下りた。
「どうした、秀一。トイレか?」
再びリビングへ入ったところで父が問いかけてきた。父はまだシャンパンを飲んでいる。母の姿は見当たらなかった。
「ちがうよ。ちょっと忘れ物」
そう言って冷蔵庫を開けると牛乳パックを取り出す。
「おいおい、まだ飲むのか?」
「僕が飲むんじゃないんだ」
言いながら冷蔵庫の扉を閉めた。
「サンタの分だよ」
戸棚からコップを取り出し、軽く水でゆすいでからミルクを注ぐ。ミルクは雪のように白く、冷たかった。近くで見ると冷気の煙が上がっていた。
パックを冷蔵庫に戻し、ミルクがこぼれないよう細心の注意を払いながらも、急いで階段を駆け上がった。
部屋に入るとコップを机の上に置き、改めてドアに鍵をかける。
もう一度、机の上に置かれたクッキーとミルクを確認し、ほっと胸をなでおろした。
これは一種の感謝の気持ちだ。プレゼントを配るサンタにほんのささやかなお礼としてクッキーとミルクを用意しておく。
作戦において意味を成さないかもしれないが、これを欠かすわけにはいかなかった。
「ふぅ、これで――完璧、かな」
秀一はゆっくりとベッドに潜り込んだ。時計に目をやると22時58分を指している。だいじょうぶ、まだまだ間に合う。睡魔はもうすぐそこまでやってきていた。最終確認を終え、安堵のため息とともに秀一はゆっくりとまぶたを閉じた。
カッカッカッカッカ……
静まり返った部屋に、無機質な秒針の音だけが静かに木霊する。
カッカッカッカッカ……
意識が遠ざかっていく。眠い。やわらかく、あたたかい布団が心地よかった。
カッカッカッカッカ……
現在の時刻、22時59分47秒。
カッカッカッカッカ……
53秒、54秒、55秒、56秒、57秒、58秒、59秒……
ジングル・ベル一覧へ 次へ

↑清きワンクリックをお願いします(Д`
―― 2 ――
カッカッカッカッカ……
現在の時刻、22時54分。
シャンパンが効いてきたのか少しずつ眠くなってきている。いい感じだ。秀一は180度寝返りをうった。
日付が変わるまではあと一時間もある。それまでには充分夢の世界へと旅立てるだろう。
サンタを証明するためには、まず今日中に眠らなくてはならない。
捕まえるわけではない、証明するのだ。
まず、兄貴の話ではサンタを見てしまった子供の前には二度とサンタは現れないのだという。
いったい何故なのだろうか。秀一はいろいろと思考を重ねた挙句、ある仮説へとたどり着いた。
サンタは極度の恥ずかしがり屋なのだ。きっと顔を見られるのがたまらなく恥ずかしいのではないか。だから昼間、堂々とプレゼントを配らずに夜中にこっそりと配りに来る。
そして、一度顔を見られた子の元へは恥ずかしくてやってこれないのではないか。
そこまで来てまた新たな仮説が生まれた。ひょっとして、サンタはルックスに自信がないのか? 一瞬、ものすごくタラコ唇なおじさんが浮かび、噴き出したことがあった。
待てよ、そうなると絵本やポスターに書かれている真っ白い髭のサンタ。あれはかつて、サンタを見た子供たちが記憶を頼りに描いたものなのだろうか。
それとも、まったくの想像で描かれたものなのか。
ぜひともサンタの顔を拝みたくなるが、来年以降プレゼントがもらえなくなっては困るので泣く泣くこの案はお蔵入りにされた。
秀一は改めて寝返りをうつ。真っ暗な部屋の中、ぼんやりと天井が視界に浮かび上がる。ゆっくりと目を閉じた。まぶたが重い。
眠ろう眠ろうと意識していては駄目だ。こうやって目を瞑り、どうでもいいことに意識を集めていれば自然と眠りにつける。秀一は、朝、目覚めた瞬間を思い描いた。
目覚ましのベルと共に目覚め、その枕元にはファンタジックな包装紙と派手なリボンに包まれたプレゼントが置かれているのだ。そう、プレゼント。
どこの誰かは知らないが、サンタ・クロースという人はよっぽど太っ腹なのだ。秀一の見解では、サンタは神様の一種ではないのだろうかというのが最有力である。
秀一はドアの方へと目を向けた。
いざとなると不安になってくる。この機を逃すと丸々一年待たなくてはならないのだ。万全を期さなくてはならない。
サンタ証明作戦の最終確認だ。
まずは鍵。ドアの鍵はしっかりと閉めてある。鍵は引き出しの中にしまってあるのだから誰もこの部屋には入れない。つまり、これで朝プレゼントがあれば、サンタは父や母ではないと証明できる。
次に、ベランダの方に視線を移した。ベランダといっても50センチほどの幅しかなく、人一人立つのがやっとだが。カーテンは半分開けてある。
外は真っ暗だ。ぽつぽつと見える家は、そのほとんどが灯りを燈していない。
厚い雲が空を覆っていた。気温もかなり低い。雪が降ってきてもおかしくないのだが、どうやらホワイト・クリスマスにはなりそうにない。
とにかく、ここの鍵は開けてある。
あいにくこの家には煙突が存在しない。よってサンタはここから部屋に入ってくることになる。
いくらサンタがすごかろうとも、泥棒でない以上自力で鍵を開けられるという保証はどこにもない。もしかしたらあきらめてプレゼントを持って帰ってしまうかもしれない。それは防がなくては。
ベランダの窓際にはマットが敷かれている。秀一がこっそり、玄関に敷いてあったものを失敬してきたのだ。
サンタはフィンランドの出身らしい。と、いうことは当然家の中でも靴を履く習慣があるのではないか。それを配慮してのことだった。小さいが、少しは泥を落とせるだろう。
秀一は我ながら完璧な作戦に笑みを漏らした。兄貴の悔しがる顔が目に浮かぶ。
これが全てではないのだ。さらに切り札を用意してある。最後にして最大の奥の手。何をプレゼントに頼んだか、だ。
『MDコンポ』
そう書かれたクリスマスカードが枕元に置かれていた。その傍らには小さな靴下が一足。もちろん入るわけがないが、一応だ。
だいぶ値が張る。高価なものだということは分かっている。果たしてサンタはこの願いを聞き入れてくれるだろうか。
兄貴でさえ『MDコンポ』を持っていない。パソコンに曲を取り込み、好きな曲だけをCD―Rへと焼き付け、聞いている。
そのくせ、MDウォークマンは持っている。バイトの金で買ったらしい。部活に行くときなどは友達に頼んで録音してもらったのだろう、耳のヘッドホンから音を漏らしながら家を出て行く。
正直言うと、MDウォークマンも欲しい。だが、二つも頼むなんて欲張りだ。ウォークマンのほうは正月の親戚めぐりで集めるお年玉を当てにするとしよう。
完璧だ。父と母は何を頼むのか分からない。でも、サンタは違う。
サンタには世界中の子供たちの願いが届くのだ。何故ならサンタはすごい人なのだから。
「……あ」
突然、間の抜けた声と共に秀一は起き上がった。
そのままベッドの上から上半身だけを乗り出し、ベッドの下をまさぐる。やがてなにやら袋を引っ張り出した。「ふんわかcookie」と書かれたクッキーの袋だ。まだ未開封のそれを机の上に置き、秀一は鍵を開けて階段を下りた。
「どうした、秀一。トイレか?」
再びリビングへ入ったところで父が問いかけてきた。父はまだシャンパンを飲んでいる。母の姿は見当たらなかった。
「ちがうよ。ちょっと忘れ物」
そう言って冷蔵庫を開けると牛乳パックを取り出す。
「おいおい、まだ飲むのか?」
「僕が飲むんじゃないんだ」
言いながら冷蔵庫の扉を閉めた。
「サンタの分だよ」
戸棚からコップを取り出し、軽く水でゆすいでからミルクを注ぐ。ミルクは雪のように白く、冷たかった。近くで見ると冷気の煙が上がっていた。
パックを冷蔵庫に戻し、ミルクがこぼれないよう細心の注意を払いながらも、急いで階段を駆け上がった。
部屋に入るとコップを机の上に置き、改めてドアに鍵をかける。
もう一度、机の上に置かれたクッキーとミルクを確認し、ほっと胸をなでおろした。
これは一種の感謝の気持ちだ。プレゼントを配るサンタにほんのささやかなお礼としてクッキーとミルクを用意しておく。
作戦において意味を成さないかもしれないが、これを欠かすわけにはいかなかった。
「ふぅ、これで――完璧、かな」
秀一はゆっくりとベッドに潜り込んだ。時計に目をやると22時58分を指している。だいじょうぶ、まだまだ間に合う。睡魔はもうすぐそこまでやってきていた。最終確認を終え、安堵のため息とともに秀一はゆっくりとまぶたを閉じた。
カッカッカッカッカ……
静まり返った部屋に、無機質な秒針の音だけが静かに木霊する。
カッカッカッカッカ……
意識が遠ざかっていく。眠い。やわらかく、あたたかい布団が心地よかった。
カッカッカッカッカ……
現在の時刻、22時59分47秒。
カッカッカッカッカ……
53秒、54秒、55秒、56秒、57秒、58秒、59秒……
ジングル・ベル一覧へ 次へ
↑清きワンクリックをお願いします(Д`
2006.06.18.Sun / 21:53
ジングル・ベル
―― 3 ――
コツコツコツコツコツコツ……
いつからだろう? ひんやりと冷たい感覚が頬にあった。
いつからだろう? 手足が冷たい。布団はしっかり被ったはずなのに。ベッドから落ちたのかなぁ。
起き上がろうにも身体がなかなか言うことを聞いてくれない。まるで金縛り状態だ。動け、動け、動け。
軋む手足に鞭打ち、やっとの思いで起き上がった。
あれ? どこだ、ここ。
床はつるつるの大理石。冷え切って氷のように冷たい。秀一はぼんやりと辺りを見回した。ベッドもなければ扉もない。そこはあきらかに秀一の部屋ではなかった。
……あぁ、そうか。これは夢か。
自然とそう思うことができた。自分が夢だと自覚しながら見る夢。たしか明晰夢とかなんとか、昔見たテレビで言っていたのを覚えていた。
実際、何度かそういう夢に出くわしたこともあった。ふとした瞬間に、これは夢だと気づくのだ。そしていざイタズラなんかをやらかそうとすると、必ず周囲から反感の眼差しと、罵声が飛び、目が覚めてしまう。
おそらく、人間の持つ罪悪感が無意識のうちにそういった公共の目を具現化してしまうのだろう。子供ながらに、秀一は理屈っぽく分析していた。
せっかく珍しい夢に出会えたので、今回はおとなしく楽しむことにした。
コツコツコツコツコツコツ……
秀一はもう一度、辺りをよく観察してみた。薄暗く、狭い空間。どうやら通路のようだ。秀一を挟んで両側にごつごつとした石壁が存在している。細い通路の一方からは、ぼぅっと明かりが見え、反対側はまっくらな闇だった。
コツコツコツコツコツコツ……
しかしなんだろう。さきほどから、このコツコツという音は。鳴っては途切れ、途切れては鳴る。どうやら通路の先から聞こえてくるようだ。秀一は壁に手を当て、暗がりの中をそれに沿って歩き出した。石壁は冷えた指先をザラザラと通り過ぎていく。随分と凝った夢だ。ぼんやりと明かりの差す通路の向こうへと秀一は歩いた。
ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ……
コツコツが鳴り止み、静けさだけの通路に秀一の裸足の足音がヒタヒタと、静かに木霊する。
冷たい。ものすごく。夢なのに。
試しに頬をつねってみた。痛くない。もっと強くつねってみた。痛くない。もっともっと強くつねってみた。――痛い、ような気がする。たぶん。
しかし考えてみれば、痛みも苦痛も、それらを含める全ての感覚は脳が受ける刺激が原因だ。もし、脳がこれは痛いのだ、冷たいのだと思い込めば自らでその刺激を生み出し、勝手に錯覚してしまうこともあるかもしれない。これは冷たく、そして痛く感じるだけ。そう、感じるだけなのだ。なにせこれは夢なのだから。
テレビから得た知識が、すべてを関連付けてくれる。
飲み込みがいいと先生によく褒められることも含め、秀一にはそういう才能があるのだろうと自分自身で自負していた。
ほどなくして少し開けた空間にでた。廊下はここで行き止まりらしい。替わりに木製のドアがひとつ、その壁に立ちふさがっていた。少しだけ開いたドアの隙間からコの字型に光がはみ出してきている。
コツコツコツコツコツコツ……
音はこの奥から聞こえてくるらしい。秀一はノブに手を掛け、ゆっくりと引いた。
やわらかい、オレンジの光が視界いっぱいに広がった。暗闇に慣れた眼が眩しさに悲鳴をあげ、秀一はとっさに手で目を覆った。数秒間硬直し、指と指の間からゆっくりと除き見た。
そのとたん、目を覆っていた手がだらりと垂れた。すごい。目の前には巨大なクリスマス・ツリーがあった。
「すげぇ……」
感嘆の声が漏れた。そのツリーから目を離すことができない。まさに釘付けだ。
無理もない。これほど巨大で、これほど美しいツリーを今まで誰が見たことだろう。
その高さは東京タワーにも匹敵するほどに巨大だった。はるか上空にまで深緑の壁が連なり、先端は見えない。大きく伸びた枝が、葉が、空のほとんどを覆い隠していた。
そしてその幹の太いこと。学校に生えている樹齢百年の巨木が、ただの棒っ切れのように思えてしまう。
きっと中をくりぬけば、学校の体育館より広いスペースが作れるだろう。
そしてその巨大さに全く引けを取ることのない派手なイルミネーション。赤青黄色、様々な光が葉の間から見え隠れし、木全体が呼応しているように見える。そしてこれまた巨大なアクセサリー。鈴やら星やらが危なっかしくぶら下がっている。あのアクセサリーは落ちてきたりしないだろうか。落ちてきたとしたら、ひとたまりもないだろう。
ふと、吊るされている家のような飾りを見て、ひょっとしたら自分の家より大きいのではと思った。
ところどころに見える白いもの、あれは本物の雪だろうか、それとも綿なのだろうか。
秀一は首が痛くなるほどに上を見上げ、そのままゆっくりとツリーに近づいていった。近づけば近づくほど身にしみて感じるその巨大さ。
「痛っ」
秀一は突如、右足に痛みを覚え立ち止まった。大理石の床が途切れ、むき出しの地面が足元にあった。細々とした石が裸足の足へ容赦なく突き刺さる。秀一は前進をあきらめ、千鳥足で床のあるところへと戻った。
「痛てて……」
夢なのに。ずいぶんとおかしな夢だが、秀一は楽しんでいた。こんな夢、初めて見る。
秀一は足の土を片足ずつ手で払いのけながら、もう一度ツリーを見上げた。おや? 所々に見えるあの黄色い光はなんだろう。
点滅するライトと違ってぼうっ淡い光がずっと灯っている。まるでチョウチンのようだ。
「ツリーにチョウチンもつけてるのかな」
秀一はやっとツリーから目を離し、周辺を見回した。
周りを取り巻く高さ十数メートルの高い壁は、ブロック状に切り出した巨大な石をレンガのように積み重ねてツリーを囲うように連なっている。
壁と緑の葉でほとんど隠れてはいるものの、わずかにのぞく澄んだ空には、幾多の星々が瞬いていた。
吐く息が白いけむりとなって出てくる。不思議と寒さは感じなかった。それどころか内側から沸いてくる興奮と好奇心で熱いくらいだった。
秀一は再びツリーに視線を戻した。その幹の根元からは極太の根が地面を容赦なく突き刺している。いったい、この木は何百年、何千年ここにたっているのだろう。
コツコツコツコツコツコツ……
不意に背後からあの音がした。反射的に体ごと振り返ったが、そこには誰もいない。だが変わりに別のものが目にうつった。あれは……、そうだ、間違いない!
秀一の視線の先、石壁にもたれかかるように積み上げられているもの。まちがいない。プレゼントだ。秀一は一目散に駆け出した。
なんて大量のプレゼントなんだ。
雑に積み上げられたそれらは秀一の身長をはるかに越える高さにまでなって今にも崩れんばかりだ。
秀一は手近にあったプレゼントの包みをひとつ、その両手に抱えてみた。カラフルな包装紙、黄色と赤の二色のリボンを可憐にまとったそれはずっしりと重く、抱えるのがやっとなほどに大きい。これでもプレゼントの山全体からみれば小さいほうだ。いったい何が入っているのだろう? 好奇心に乗っ取られ、秀一の手は無意識にリボンを解こうとしていた。
――いけないっ!
秀一はとっさに手を引っ込めた。これは人のものだ。勝手にあけちゃいけない。
と、そこまで思って自分がものすごくおかしなことを言っているのに気がついた。そうだ、これは夢じゃないか。自分の夢の中に出てくるものをどうこうしようと、自分の勝手じゃないか? 数秒間、頭の中で天使と悪魔が熱戦を繰り広げた結果、やはりプレゼントの中身が気になり、開けてみることにした。
リボンの一端に手を掛け、そっと引くだけでそれはするりと解けた。丁寧に折り込まれた包装紙を破らないようにそっと開けていく。はたして、本当に開けてしまっていいのだろうか。一応中身を確認したら元に戻すつもりでいた。
「おい、おめぇ何してんだよ!」
ジングル・ベル一覧へ 次へ

↑清きワンクリックをお願いします(Д`
―― 3 ――
コツコツコツコツコツコツ……
いつからだろう? ひんやりと冷たい感覚が頬にあった。
いつからだろう? 手足が冷たい。布団はしっかり被ったはずなのに。ベッドから落ちたのかなぁ。
起き上がろうにも身体がなかなか言うことを聞いてくれない。まるで金縛り状態だ。動け、動け、動け。
軋む手足に鞭打ち、やっとの思いで起き上がった。
あれ? どこだ、ここ。
床はつるつるの大理石。冷え切って氷のように冷たい。秀一はぼんやりと辺りを見回した。ベッドもなければ扉もない。そこはあきらかに秀一の部屋ではなかった。
……あぁ、そうか。これは夢か。
自然とそう思うことができた。自分が夢だと自覚しながら見る夢。たしか明晰夢とかなんとか、昔見たテレビで言っていたのを覚えていた。
実際、何度かそういう夢に出くわしたこともあった。ふとした瞬間に、これは夢だと気づくのだ。そしていざイタズラなんかをやらかそうとすると、必ず周囲から反感の眼差しと、罵声が飛び、目が覚めてしまう。
おそらく、人間の持つ罪悪感が無意識のうちにそういった公共の目を具現化してしまうのだろう。子供ながらに、秀一は理屈っぽく分析していた。
せっかく珍しい夢に出会えたので、今回はおとなしく楽しむことにした。
コツコツコツコツコツコツ……
秀一はもう一度、辺りをよく観察してみた。薄暗く、狭い空間。どうやら通路のようだ。秀一を挟んで両側にごつごつとした石壁が存在している。細い通路の一方からは、ぼぅっと明かりが見え、反対側はまっくらな闇だった。
コツコツコツコツコツコツ……
しかしなんだろう。さきほどから、このコツコツという音は。鳴っては途切れ、途切れては鳴る。どうやら通路の先から聞こえてくるようだ。秀一は壁に手を当て、暗がりの中をそれに沿って歩き出した。石壁は冷えた指先をザラザラと通り過ぎていく。随分と凝った夢だ。ぼんやりと明かりの差す通路の向こうへと秀一は歩いた。
ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ……
コツコツが鳴り止み、静けさだけの通路に秀一の裸足の足音がヒタヒタと、静かに木霊する。
冷たい。ものすごく。夢なのに。
試しに頬をつねってみた。痛くない。もっと強くつねってみた。痛くない。もっともっと強くつねってみた。――痛い、ような気がする。たぶん。
しかし考えてみれば、痛みも苦痛も、それらを含める全ての感覚は脳が受ける刺激が原因だ。もし、脳がこれは痛いのだ、冷たいのだと思い込めば自らでその刺激を生み出し、勝手に錯覚してしまうこともあるかもしれない。これは冷たく、そして痛く感じるだけ。そう、感じるだけなのだ。なにせこれは夢なのだから。
テレビから得た知識が、すべてを関連付けてくれる。
飲み込みがいいと先生によく褒められることも含め、秀一にはそういう才能があるのだろうと自分自身で自負していた。
ほどなくして少し開けた空間にでた。廊下はここで行き止まりらしい。替わりに木製のドアがひとつ、その壁に立ちふさがっていた。少しだけ開いたドアの隙間からコの字型に光がはみ出してきている。
コツコツコツコツコツコツ……
音はこの奥から聞こえてくるらしい。秀一はノブに手を掛け、ゆっくりと引いた。
やわらかい、オレンジの光が視界いっぱいに広がった。暗闇に慣れた眼が眩しさに悲鳴をあげ、秀一はとっさに手で目を覆った。数秒間硬直し、指と指の間からゆっくりと除き見た。
そのとたん、目を覆っていた手がだらりと垂れた。すごい。目の前には巨大なクリスマス・ツリーがあった。
「すげぇ……」
感嘆の声が漏れた。そのツリーから目を離すことができない。まさに釘付けだ。
無理もない。これほど巨大で、これほど美しいツリーを今まで誰が見たことだろう。
その高さは東京タワーにも匹敵するほどに巨大だった。はるか上空にまで深緑の壁が連なり、先端は見えない。大きく伸びた枝が、葉が、空のほとんどを覆い隠していた。
そしてその幹の太いこと。学校に生えている樹齢百年の巨木が、ただの棒っ切れのように思えてしまう。
きっと中をくりぬけば、学校の体育館より広いスペースが作れるだろう。
そしてその巨大さに全く引けを取ることのない派手なイルミネーション。赤青黄色、様々な光が葉の間から見え隠れし、木全体が呼応しているように見える。そしてこれまた巨大なアクセサリー。鈴やら星やらが危なっかしくぶら下がっている。あのアクセサリーは落ちてきたりしないだろうか。落ちてきたとしたら、ひとたまりもないだろう。
ふと、吊るされている家のような飾りを見て、ひょっとしたら自分の家より大きいのではと思った。
ところどころに見える白いもの、あれは本物の雪だろうか、それとも綿なのだろうか。
秀一は首が痛くなるほどに上を見上げ、そのままゆっくりとツリーに近づいていった。近づけば近づくほど身にしみて感じるその巨大さ。
「痛っ」
秀一は突如、右足に痛みを覚え立ち止まった。大理石の床が途切れ、むき出しの地面が足元にあった。細々とした石が裸足の足へ容赦なく突き刺さる。秀一は前進をあきらめ、千鳥足で床のあるところへと戻った。
「痛てて……」
夢なのに。ずいぶんとおかしな夢だが、秀一は楽しんでいた。こんな夢、初めて見る。
秀一は足の土を片足ずつ手で払いのけながら、もう一度ツリーを見上げた。おや? 所々に見えるあの黄色い光はなんだろう。
点滅するライトと違ってぼうっ淡い光がずっと灯っている。まるでチョウチンのようだ。
「ツリーにチョウチンもつけてるのかな」
秀一はやっとツリーから目を離し、周辺を見回した。
周りを取り巻く高さ十数メートルの高い壁は、ブロック状に切り出した巨大な石をレンガのように積み重ねてツリーを囲うように連なっている。
壁と緑の葉でほとんど隠れてはいるものの、わずかにのぞく澄んだ空には、幾多の星々が瞬いていた。
吐く息が白いけむりとなって出てくる。不思議と寒さは感じなかった。それどころか内側から沸いてくる興奮と好奇心で熱いくらいだった。
秀一は再びツリーに視線を戻した。その幹の根元からは極太の根が地面を容赦なく突き刺している。いったい、この木は何百年、何千年ここにたっているのだろう。
コツコツコツコツコツコツ……
不意に背後からあの音がした。反射的に体ごと振り返ったが、そこには誰もいない。だが変わりに別のものが目にうつった。あれは……、そうだ、間違いない!
秀一の視線の先、石壁にもたれかかるように積み上げられているもの。まちがいない。プレゼントだ。秀一は一目散に駆け出した。
なんて大量のプレゼントなんだ。
雑に積み上げられたそれらは秀一の身長をはるかに越える高さにまでなって今にも崩れんばかりだ。
秀一は手近にあったプレゼントの包みをひとつ、その両手に抱えてみた。カラフルな包装紙、黄色と赤の二色のリボンを可憐にまとったそれはずっしりと重く、抱えるのがやっとなほどに大きい。これでもプレゼントの山全体からみれば小さいほうだ。いったい何が入っているのだろう? 好奇心に乗っ取られ、秀一の手は無意識にリボンを解こうとしていた。
――いけないっ!
秀一はとっさに手を引っ込めた。これは人のものだ。勝手にあけちゃいけない。
と、そこまで思って自分がものすごくおかしなことを言っているのに気がついた。そうだ、これは夢じゃないか。自分の夢の中に出てくるものをどうこうしようと、自分の勝手じゃないか? 数秒間、頭の中で天使と悪魔が熱戦を繰り広げた結果、やはりプレゼントの中身が気になり、開けてみることにした。
リボンの一端に手を掛け、そっと引くだけでそれはするりと解けた。丁寧に折り込まれた包装紙を破らないようにそっと開けていく。はたして、本当に開けてしまっていいのだろうか。一応中身を確認したら元に戻すつもりでいた。
「おい、おめぇ何してんだよ!」
ジングル・ベル一覧へ 次へ
↑清きワンクリックをお願いします(Д`
2006.10.30.Mon / 19:48
ジングル・ベル
―― 4 ――
……しまった。
またやってしまった……。せっかく珍しい夢に出会えたのに。
秀一はゆっくりとプレゼントから手を離し、しぶしぶと振り向いた。後ろに立っているであろう罪悪感さんにこの夢からつまみ出されるために。
「ごめんなさいっ!」
振り向くと同時に硬く目を瞑り、秀一は大声で謝った。小学校での生活で、謝ることには慣れている。こういうのは素直が一番なのだ。
「まったく……、あぁ〜あぁ〜、こんなにしやがって……」
コツコツコツコツ。
秀一はしばらく目を瞑ったまま、じっと動かなかった。プレゼントを開けたことを怒ってはいるようだが、相手のリアクションは想像していたものより遥かにマシらしい。怒鳴られることもなければしっぺを食らうこともない。それどころか夢から追い出される気配も今のところ感じない。それに、このコツコツという音……。
秀一は片目を恐る恐る開いてみた。
あれ? 誰もいない。
かわりに背後から何やらガサゴソという音がして振り返った。そしてその視線の先には、プレゼントの前でなにやらうごめく茶色い物体。
なんだ、これは……。
止まってしまった思考。それと裏腹にソレを舐めまわすように動き回る目線。そして目線はあるものに注目した。物体のてっぺんにそびえる二本の――角。左右対称にF字型を描く奇妙な角。
物体は相変わらずガサゴソとやっている。見るとプレゼントの包装紙がしわひとつ作ることなく元通りになっていく。シュルシュルと、まるで意思を持っているかのように巻かれていくリボン。最後にキュッ、っとすっかりプレゼントは元の状態へと戻った。
「困るなぁ……。おめぇ、どっから入ってきたんだ?」
そう言って茶色い物体はこちらへ振り向いた。二本の角が大きく揺れる。
これは、まちがいないよな? 正面から改めてそれを凝視し、確信と疑念が半々のまま声となってもれた。
「トナカイ、だ」
目の前に立っている茶色いの。これは百人に聞けばまず七十人は同じ答えを返すだろう。トナカイだ。だがひとつ、あえて言うなら――
身長は秀一の半分ほど。太く、短い二本の足。細く、足よりも長い手、というか前足。
大きな頭と寸胴な身体とのバランスはせいぜい二頭身といったところだろうか。茶色いその身体は見るからにふわふわで、バスタオルを思わず連想してしまう。
歌に出てくる通りの立派な赤っ鼻で、妙にリアルな黒い瞳がわずかな光の下で輝いている。頭にそびえる白っぽい二本の角はゆさゆさと揺れていた。
この微妙に愛くるしい姿はまさにぬいぐるみだった。二足歩行でその上、口まできいてきた。なんなんだこれは。
「おいこら」
だが、その愛くるしい姿とは打って変わって、結構荒い言葉遣いをする。声の質や高さなんかは秀一と同年代な印象を受けるだけあってなんだか生意気に感じてしまう。
「てめぇトナカイとはなんだ。歳いくつだよ? 目上の人には“さん”つけろ。“さん”」
トナカイはつま先立ちをして、秀一の顔を覗き込んできた。眉と眉間のところにしわを作り、あからさまに不機嫌な顔を作っている。
いわゆるガンを飛ばすというやつだろうか。
子犬のように真っ黒な瞳はなんの表情も映していないのがなお怖い。
「えっ……僕は、10歳だけど。そっちこそなんだよ! 偉そうに」
トナカイはふん、と鼻で笑うとつま先立ちをやめて細い腕を偉そうに組んだ。眉のしわが今度は優越的なものへと変わっている。とんがった鼻先の下にある口らしきものがニヤリと歪んだ。
「10歳? ふん。餓鬼んちょが。俺なんてもぅ1500はいってるぜ」
1500――
一瞬遅れて秀一は鼻で笑ってしまった。
「なっ――おいこら、何笑ってんだよ」
トナカイの態度から年上なのだろうとは思っていたが、あまりにもかけ離れた数字につい笑ってしまった。笑われたことに対して怒るトナカイの反応が後を押して、その笑いは含み笑いにまで成長する。
ついには大声で笑い出す秀一に対し、トナカイの顔のしわがいっそう深まった。
「この……いい加減にしやがれ! こちとら未だに寝小便たれてるような餓鬼んちょとはわけがちがうんだよ」
「っな――」
思わぬ不意打ちに秀一の笑いは打ち崩された。さすがに未だに寝小便はしないが、最後の過ちが8歳の終わりだったという心の傷が秀一の胸の中でうずく。
「なんだ? 図星かよ、おいこら」
秀一の反応を見ながら、今度は逆にトナカイがゲラゲラと笑いだした。
「んなわけないだろ! 誰が寝小便なんか……」
語尾が下がっていくのが自分でも分かってしまい、顔が熱くなるのを感じた。それを察してか目の前でいっそう声を上げて笑うトナカイ。しまいには腹までかかえだした。恥ずかしさと悔しさで顔が更に赤くなるのを感じる。
「おめぇおもしれぇやつだな! ひっひっひぃーっ」
「もぅ笑うの止めてよ。誰だってオネショぐらい……」
涙をぬぐうようにトナカイは目をこすり、ようやく笑うのを止めて身を起こした。その息はまだ乱れている。そんなに笑うことだろうか。
「……君、トナカイだよね?」
「あぁ? あー、そうだよ。一応な。てか俺にはちゃんと名前があんだよ。おめぇ人間だろ? 人間って呼ぶぞ、コラ」
トナカイの表情はいくぶん穏やかなものになっていた。だがガラの悪い印象を受ける眉間のしわは相変わらずだ。
「あ、ごめん。えっと、名前はなんていうの。トナカイ、さん」
「名前か? 俺はな、ミッキーってんだ。よろしく」
トナカイはニヤニヤしながらそう言い放った。
「え、ミッキー!?」
慌てて口をふさぐがその声は何度も壁に反響し、しばらく広場を木霊した。
「なんだ、また笑うのか? 寝小便小僧め」
「いや、笑わないよ。うん」
そう言いながらも内心は冷や冷やしていた。
ミッキー……。
不意打ちを食らって焦る脳裏にネズミのキャラクターがちらつく。必死でそれを払いのけた。
「おい、人間。お前に名前はあるのか」
「あ、僕、秀一。浅野 秀一っていうんだ」
少し焦りながらそう答えた。指が無意識に鼻の頭をかいている。悪い癖だ。動揺するとすぐ鼻をかいてしまう。
「アサノ シュウイチ? なんだ、おめぇも二つ名前があんのか。めんどくせーなぁ」
「シュウイチでいいよ」
「それでもまだ長ぇよ。めんどくせーからシュウにしろ。な、シュウ。決定!」
「あぁ……まぁいいけど。よろしく、ミッキー」
強引にむこうのペースに引き込まれている気がするが無理に反抗しないほうがよさそうだと秀一は判断した。
「おい、“さん”つけろよ。“さん”」
「……ミッキーさん」
「へっへっへ。冗談だ。ミッキーでいい」
ミッキーはその顔をクシャクシャにゆがめ、彼なりの笑顔を見せた。素直じゃなくて、えらそうで。なんだか変なやつだけど、憎めないやつ。それがミッキーの印象だった。
「ついてこい。案内してやるよ!」
「え、どこに?」
ミッキーは秀一の手を強引に引きながら振り返ってまた笑った。
「おめぇと同じ人間のところにつれてってやる」
そう言ってミッキーは秀一の通ったのとは別の扉へ向かって走り出した。コツコツとあの軽快なリズムが彼のヒヅメと大理石が出会うたび、冷えた夜空に鳴り響いた。
ジングル・ベル一覧へ 次へ

↑清きワンクリックをお願いします(Д`
―― 4 ――
……しまった。
またやってしまった……。せっかく珍しい夢に出会えたのに。
秀一はゆっくりとプレゼントから手を離し、しぶしぶと振り向いた。後ろに立っているであろう罪悪感さんにこの夢からつまみ出されるために。
「ごめんなさいっ!」
振り向くと同時に硬く目を瞑り、秀一は大声で謝った。小学校での生活で、謝ることには慣れている。こういうのは素直が一番なのだ。
「まったく……、あぁ〜あぁ〜、こんなにしやがって……」
コツコツコツコツ。
秀一はしばらく目を瞑ったまま、じっと動かなかった。プレゼントを開けたことを怒ってはいるようだが、相手のリアクションは想像していたものより遥かにマシらしい。怒鳴られることもなければしっぺを食らうこともない。それどころか夢から追い出される気配も今のところ感じない。それに、このコツコツという音……。
秀一は片目を恐る恐る開いてみた。
あれ? 誰もいない。
かわりに背後から何やらガサゴソという音がして振り返った。そしてその視線の先には、プレゼントの前でなにやらうごめく茶色い物体。
なんだ、これは……。
止まってしまった思考。それと裏腹にソレを舐めまわすように動き回る目線。そして目線はあるものに注目した。物体のてっぺんにそびえる二本の――角。左右対称にF字型を描く奇妙な角。
物体は相変わらずガサゴソとやっている。見るとプレゼントの包装紙がしわひとつ作ることなく元通りになっていく。シュルシュルと、まるで意思を持っているかのように巻かれていくリボン。最後にキュッ、っとすっかりプレゼントは元の状態へと戻った。
「困るなぁ……。おめぇ、どっから入ってきたんだ?」
そう言って茶色い物体はこちらへ振り向いた。二本の角が大きく揺れる。
これは、まちがいないよな? 正面から改めてそれを凝視し、確信と疑念が半々のまま声となってもれた。
「トナカイ、だ」
目の前に立っている茶色いの。これは百人に聞けばまず七十人は同じ答えを返すだろう。トナカイだ。だがひとつ、あえて言うなら――
身長は秀一の半分ほど。太く、短い二本の足。細く、足よりも長い手、というか前足。
大きな頭と寸胴な身体とのバランスはせいぜい二頭身といったところだろうか。茶色いその身体は見るからにふわふわで、バスタオルを思わず連想してしまう。
歌に出てくる通りの立派な赤っ鼻で、妙にリアルな黒い瞳がわずかな光の下で輝いている。頭にそびえる白っぽい二本の角はゆさゆさと揺れていた。
この微妙に愛くるしい姿はまさにぬいぐるみだった。二足歩行でその上、口まできいてきた。なんなんだこれは。
「おいこら」
だが、その愛くるしい姿とは打って変わって、結構荒い言葉遣いをする。声の質や高さなんかは秀一と同年代な印象を受けるだけあってなんだか生意気に感じてしまう。
「てめぇトナカイとはなんだ。歳いくつだよ? 目上の人には“さん”つけろ。“さん”」
トナカイはつま先立ちをして、秀一の顔を覗き込んできた。眉と眉間のところにしわを作り、あからさまに不機嫌な顔を作っている。
いわゆるガンを飛ばすというやつだろうか。
子犬のように真っ黒な瞳はなんの表情も映していないのがなお怖い。
「えっ……僕は、10歳だけど。そっちこそなんだよ! 偉そうに」
トナカイはふん、と鼻で笑うとつま先立ちをやめて細い腕を偉そうに組んだ。眉のしわが今度は優越的なものへと変わっている。とんがった鼻先の下にある口らしきものがニヤリと歪んだ。
「10歳? ふん。餓鬼んちょが。俺なんてもぅ1500はいってるぜ」
1500――
一瞬遅れて秀一は鼻で笑ってしまった。
「なっ――おいこら、何笑ってんだよ」
トナカイの態度から年上なのだろうとは思っていたが、あまりにもかけ離れた数字につい笑ってしまった。笑われたことに対して怒るトナカイの反応が後を押して、その笑いは含み笑いにまで成長する。
ついには大声で笑い出す秀一に対し、トナカイの顔のしわがいっそう深まった。
「この……いい加減にしやがれ! こちとら未だに寝小便たれてるような餓鬼んちょとはわけがちがうんだよ」
「っな――」
思わぬ不意打ちに秀一の笑いは打ち崩された。さすがに未だに寝小便はしないが、最後の過ちが8歳の終わりだったという心の傷が秀一の胸の中でうずく。
「なんだ? 図星かよ、おいこら」
秀一の反応を見ながら、今度は逆にトナカイがゲラゲラと笑いだした。
「んなわけないだろ! 誰が寝小便なんか……」
語尾が下がっていくのが自分でも分かってしまい、顔が熱くなるのを感じた。それを察してか目の前でいっそう声を上げて笑うトナカイ。しまいには腹までかかえだした。恥ずかしさと悔しさで顔が更に赤くなるのを感じる。
「おめぇおもしれぇやつだな! ひっひっひぃーっ」
「もぅ笑うの止めてよ。誰だってオネショぐらい……」
涙をぬぐうようにトナカイは目をこすり、ようやく笑うのを止めて身を起こした。その息はまだ乱れている。そんなに笑うことだろうか。
「……君、トナカイだよね?」
「あぁ? あー、そうだよ。一応な。てか俺にはちゃんと名前があんだよ。おめぇ人間だろ? 人間って呼ぶぞ、コラ」
トナカイの表情はいくぶん穏やかなものになっていた。だがガラの悪い印象を受ける眉間のしわは相変わらずだ。
「あ、ごめん。えっと、名前はなんていうの。トナカイ、さん」
「名前か? 俺はな、ミッキーってんだ。よろしく」
トナカイはニヤニヤしながらそう言い放った。
「え、ミッキー!?」
慌てて口をふさぐがその声は何度も壁に反響し、しばらく広場を木霊した。
「なんだ、また笑うのか? 寝小便小僧め」
「いや、笑わないよ。うん」
そう言いながらも内心は冷や冷やしていた。
ミッキー……。
不意打ちを食らって焦る脳裏にネズミのキャラクターがちらつく。必死でそれを払いのけた。
「おい、人間。お前に名前はあるのか」
「あ、僕、秀一。浅野 秀一っていうんだ」
少し焦りながらそう答えた。指が無意識に鼻の頭をかいている。悪い癖だ。動揺するとすぐ鼻をかいてしまう。
「アサノ シュウイチ? なんだ、おめぇも二つ名前があんのか。めんどくせーなぁ」
「シュウイチでいいよ」
「それでもまだ長ぇよ。めんどくせーからシュウにしろ。な、シュウ。決定!」
「あぁ……まぁいいけど。よろしく、ミッキー」
強引にむこうのペースに引き込まれている気がするが無理に反抗しないほうがよさそうだと秀一は判断した。
「おい、“さん”つけろよ。“さん”」
「……ミッキーさん」
「へっへっへ。冗談だ。ミッキーでいい」
ミッキーはその顔をクシャクシャにゆがめ、彼なりの笑顔を見せた。素直じゃなくて、えらそうで。なんだか変なやつだけど、憎めないやつ。それがミッキーの印象だった。
「ついてこい。案内してやるよ!」
「え、どこに?」
ミッキーは秀一の手を強引に引きながら振り返ってまた笑った。
「おめぇと同じ人間のところにつれてってやる」
そう言ってミッキーは秀一の通ったのとは別の扉へ向かって走り出した。コツコツとあの軽快なリズムが彼のヒヅメと大理石が出会うたび、冷えた夜空に鳴り響いた。
ジングル・ベル一覧へ 次へ
↑清きワンクリックをお願いします(Д`
2006.11.02.Thu / 18:25
ジングル・ベル
――5――
通路を抜けると、そこは雪国だった。
一面の銀世界。澄んだ空に瞬くいくつもの星と、まんまるなお月様の光に照らされて、キラキラと雪の一粒一粒が輝いているようだった。
20センチは積もっている雪の絨毯の上を一本の道らしきものがくねくね曲がりながら伸びていた。秀一とミッキーはその道を二人並んで歩いていく。
「すごいなぁ、僕こんなに雪が積もってるところ見たことないよ」
秀一は辺りをキョロキョロと引っ切り無しに見回していた。その時、木の枝に積もっていた雪の一部が音を立てて落ちる。それを見て、また感嘆の声を漏らした。
「おめぇ、変わってるな。俺なんてもぅ何回も見てるからなんとも思わねぇけどなぁ、雪なんて」
テクテクと、ミッキーは歩くたび、その短い足でヒヅメの足跡を雪に刻み付けていった。秀一もまた、それに習うように足跡をつけて歩く。不思議だった。裸足で歩いているのにぜんぜん冷たくない。むしろサクサクと、リズムを刻む感じが楽しかった。
「シュウ!」
少し前を歩くミッキーの声に秀一は顔を上げた。が、その瞬間、視界が真っ白に染まる。
「うわっ」
「うぇっへっへっへ」
ミッキーの声がする。秀一は頭を振るい、顔面にかぶった雪を振り払った。
「な、にすんだよ」
「それ、もいっちょ」
そう言ってミッキーから放たれた雪球をかわそうと秀一は飛びのいた。雪球が腰元をわずかにかすめる。
「この、やったな!」
あわてて次の雪球を作るミッキーに対し、秀一もすばやく右手いっぱいに雪を拾い上げ、ギュッと握って大雑把に固め、放った。
「うわっ」
その球は見事命中し、ミッキーはよろめいて作りかけの球を落としてしまった。その間に秀一は、今度は両手で雪を拾い上げ、更に強くギュッと固めて同時に放った。
「わわわ!」
あわてて飛び退くものの、二発中一発はミッキーを逃さなかった。
「ズリぃぞ、おめぇ!」
そう叫びながら彼は作りかけの球を拾い上げる。彼のヒズメでは秀一のようにすばやく球をまるめられないようだ。
それを知ってか、秀一はすばやく球を作っては放ち、ミッキーに球を作らせる暇を与えなかった。
「てててて」
たまらずミッキーは逃げ出した。一本道を走り、雪の丘を登っていく。秀一はそれを、両手に雪球を持ったまま追いかけた。
「くらえ!」
突然振り向いたミッキーの両手にはかなりの大きさの雪球が握られていた。いつのまにあんな大きいのを。とっさのことで、秀一はかわすこともできず、雪球は見事顔面に炸裂し、そのまま秀一は後ろに倒れこんだ。
「くぅ、やられた」
ブンブンと頭を振りながら、秀一は立ち上がった。目の前にミッキーの姿はない。あるのは小さな丘の上へと登っていくヒヅメの足跡だけ。
「くそ、みてろよぉ」
秀一はしゃがみこみ、両手でニ、三度雪をかき集めるとそれを固め、雪だるまの頭ほどの大きさの球を完成させ、それを抱えて小走りで丘を登りだした。
十秒ほどで丘の上にたどり着く。だがそこにもミッキーの姿はなかった。
「あれ?」
間の抜けた声を出し、足元を見た。ミッキーの足跡が消えている。しまった! あわてて秀一は雪球を頭上にかかげ、いつでも投げられるようにして辺りを見回した。どこに隠れている? うしろを一通り見回すがそれらしきものは見当たらない。それじゃあ前か。秀一はもう一度前方に目をやった。
「あ」
秀一の瞳はミッキーではなく、別のものを見つけた。
夜の闇と、白く輝く雪の二色だけの世界にぼぅっと灯る黄色い光。家だ。
一本道の続く先、丘のすぐ下に家がある。雪に覆われたその家には煙突があり、そこからうっすらと白い煙が上がっていた。誰かいるのか? ミッキーの家かな?
「うりゃ!」
「うわっ」
突然、秀一の背中になにかが飛び掛ってきた。バランスを崩し、前へと倒れこむ。一瞬遅れてあの雪球が背中の上に落ちてきた。どさっという重みと共に、うえっという妙な声が聞こえた。
「いてて」
雪を押しのけて立ち上がると、足元でミッキーが半分埋まっていた。
「ミッキー!」
あわてて掘り起こすと、ミッキーは寝違ったように首を押さえて立ち上がった。
「大丈夫?」
ぬいぐるみだから大丈夫だろうとは思うが一応声をかけた。
「んなわけあるか! 痛ぇじゃねぇか、コノヤロー」
眉間のしわが不機嫌モードに突入している。
「いや、今のはいきなりミッキーがさぁ」
「あんなでけぇの、作るか普通。鬼か、おめぇは。あんなのぶつける気だったのかよ。鬼だな、おめぇは」
ミッキーはパンパンと、身体についた粉雪を払いのけ、腕組みをして歩き出した。
振り向きもせず、足踏みも荒くノシノシと丘を下りだすミッキー。
「ねぇ、ミッキー」
「なんだよ」
少し不機嫌そうな返事だったがあえて触れなかった。
「あの家、もしかしてミッキーん家?」
「あぁ、そうだよ。俺ん家さ」
少しだけ振り向いて、ミッキーは淡々とそう答えた。
「ねぇ、もしかして怒ってる?」
一瞬の沈黙の後、ミッキーは頭をボリボリとかきながらこちらに振り返った。
「……別に、怒ってやしねぇよ。ただ、なんつぅか、こんな風に遊んだの初めてで――」
「楽しかったね」
秀一の言葉に、ミッキーの顔が今まで見せたことのない表情を見せた。が、すぐに後ろを向いてしまった。
「楽しかねぇよ。餓鬼じゃあるまいし。ただ――」
「ただ?」
「……悪く、なかった」
「素直じゃないね」
その言葉にミッキーが一瞬、睨み付けるような顔でこちらを向いたが、またすぐに向こうを向いてしまった。
「うるせぇよ、コノヤロー」
ミッキーは小さな声でそう呟くと、また足早に丘を下りだした。秀一は少し笑みを浮かべ、ミッキーの後に続いて丘を下りだす。
「まってよ、ミッキー。一緒にいこ」
「うるせぇよ!」
満天の星空の下。真っ白な雪の上。
小さなヒヅメと、小さな足跡が二つ並んで、まるで仲良く歩幅を揃えるようにどこまでも刻まれていった。
ジングル・ベル一覧へ

↑清きワンクリックをお願いします(Д`
――5――
通路を抜けると、そこは雪国だった。
一面の銀世界。澄んだ空に瞬くいくつもの星と、まんまるなお月様の光に照らされて、キラキラと雪の一粒一粒が輝いているようだった。
20センチは積もっている雪の絨毯の上を一本の道らしきものがくねくね曲がりながら伸びていた。秀一とミッキーはその道を二人並んで歩いていく。
「すごいなぁ、僕こんなに雪が積もってるところ見たことないよ」
秀一は辺りをキョロキョロと引っ切り無しに見回していた。その時、木の枝に積もっていた雪の一部が音を立てて落ちる。それを見て、また感嘆の声を漏らした。
「おめぇ、変わってるな。俺なんてもぅ何回も見てるからなんとも思わねぇけどなぁ、雪なんて」
テクテクと、ミッキーは歩くたび、その短い足でヒヅメの足跡を雪に刻み付けていった。秀一もまた、それに習うように足跡をつけて歩く。不思議だった。裸足で歩いているのにぜんぜん冷たくない。むしろサクサクと、リズムを刻む感じが楽しかった。
「シュウ!」
少し前を歩くミッキーの声に秀一は顔を上げた。が、その瞬間、視界が真っ白に染まる。
「うわっ」
「うぇっへっへっへ」
ミッキーの声がする。秀一は頭を振るい、顔面にかぶった雪を振り払った。
「な、にすんだよ」
「それ、もいっちょ」
そう言ってミッキーから放たれた雪球をかわそうと秀一は飛びのいた。雪球が腰元をわずかにかすめる。
「この、やったな!」
あわてて次の雪球を作るミッキーに対し、秀一もすばやく右手いっぱいに雪を拾い上げ、ギュッと握って大雑把に固め、放った。
「うわっ」
その球は見事命中し、ミッキーはよろめいて作りかけの球を落としてしまった。その間に秀一は、今度は両手で雪を拾い上げ、更に強くギュッと固めて同時に放った。
「わわわ!」
あわてて飛び退くものの、二発中一発はミッキーを逃さなかった。
「ズリぃぞ、おめぇ!」
そう叫びながら彼は作りかけの球を拾い上げる。彼のヒズメでは秀一のようにすばやく球をまるめられないようだ。
それを知ってか、秀一はすばやく球を作っては放ち、ミッキーに球を作らせる暇を与えなかった。
「てててて」
たまらずミッキーは逃げ出した。一本道を走り、雪の丘を登っていく。秀一はそれを、両手に雪球を持ったまま追いかけた。
「くらえ!」
突然振り向いたミッキーの両手にはかなりの大きさの雪球が握られていた。いつのまにあんな大きいのを。とっさのことで、秀一はかわすこともできず、雪球は見事顔面に炸裂し、そのまま秀一は後ろに倒れこんだ。
「くぅ、やられた」
ブンブンと頭を振りながら、秀一は立ち上がった。目の前にミッキーの姿はない。あるのは小さな丘の上へと登っていくヒヅメの足跡だけ。
「くそ、みてろよぉ」
秀一はしゃがみこみ、両手でニ、三度雪をかき集めるとそれを固め、雪だるまの頭ほどの大きさの球を完成させ、それを抱えて小走りで丘を登りだした。
十秒ほどで丘の上にたどり着く。だがそこにもミッキーの姿はなかった。
「あれ?」
間の抜けた声を出し、足元を見た。ミッキーの足跡が消えている。しまった! あわてて秀一は雪球を頭上にかかげ、いつでも投げられるようにして辺りを見回した。どこに隠れている? うしろを一通り見回すがそれらしきものは見当たらない。それじゃあ前か。秀一はもう一度前方に目をやった。
「あ」
秀一の瞳はミッキーではなく、別のものを見つけた。
夜の闇と、白く輝く雪の二色だけの世界にぼぅっと灯る黄色い光。家だ。
一本道の続く先、丘のすぐ下に家がある。雪に覆われたその家には煙突があり、そこからうっすらと白い煙が上がっていた。誰かいるのか? ミッキーの家かな?
「うりゃ!」
「うわっ」
突然、秀一の背中になにかが飛び掛ってきた。バランスを崩し、前へと倒れこむ。一瞬遅れてあの雪球が背中の上に落ちてきた。どさっという重みと共に、うえっという妙な声が聞こえた。
「いてて」
雪を押しのけて立ち上がると、足元でミッキーが半分埋まっていた。
「ミッキー!」
あわてて掘り起こすと、ミッキーは寝違ったように首を押さえて立ち上がった。
「大丈夫?」
ぬいぐるみだから大丈夫だろうとは思うが一応声をかけた。
「んなわけあるか! 痛ぇじゃねぇか、コノヤロー」
眉間のしわが不機嫌モードに突入している。
「いや、今のはいきなりミッキーがさぁ」
「あんなでけぇの、作るか普通。鬼か、おめぇは。あんなのぶつける気だったのかよ。鬼だな、おめぇは」
ミッキーはパンパンと、身体についた粉雪を払いのけ、腕組みをして歩き出した。
振り向きもせず、足踏みも荒くノシノシと丘を下りだすミッキー。
「ねぇ、ミッキー」
「なんだよ」
少し不機嫌そうな返事だったがあえて触れなかった。
「あの家、もしかしてミッキーん家?」
「あぁ、そうだよ。俺ん家さ」
少しだけ振り向いて、ミッキーは淡々とそう答えた。
「ねぇ、もしかして怒ってる?」
一瞬の沈黙の後、ミッキーは頭をボリボリとかきながらこちらに振り返った。
「……別に、怒ってやしねぇよ。ただ、なんつぅか、こんな風に遊んだの初めてで――」
「楽しかったね」
秀一の言葉に、ミッキーの顔が今まで見せたことのない表情を見せた。が、すぐに後ろを向いてしまった。
「楽しかねぇよ。餓鬼じゃあるまいし。ただ――」
「ただ?」
「……悪く、なかった」
「素直じゃないね」
その言葉にミッキーが一瞬、睨み付けるような顔でこちらを向いたが、またすぐに向こうを向いてしまった。
「うるせぇよ、コノヤロー」
ミッキーは小さな声でそう呟くと、また足早に丘を下りだした。秀一は少し笑みを浮かべ、ミッキーの後に続いて丘を下りだす。
「まってよ、ミッキー。一緒にいこ」
「うるせぇよ!」
満天の星空の下。真っ白な雪の上。
小さなヒヅメと、小さな足跡が二つ並んで、まるで仲良く歩幅を揃えるようにどこまでも刻まれていった。
ジングル・ベル一覧へ
↑清きワンクリックをお願いします(Д`





